
皆さんこんにちは。本日は泌尿器外来でもよく相談のある「頻尿」についてです。
「なんだかトイレに行く回数が多い」
「急に尿意が強くなって間に合わない」
「夜中に何度も目が覚めてトイレへ…」――。こうした悩みを、「加齢だから仕方ない」とあきらめていませんか?
実は、こうした症状には 過活動膀胱(OAB:Overactive Bladder)という明確な病態が関係していることがあります。
放っておくと日常生活の質(QOL)が低下してしまうこともあります。
今回は、症状・原因・治療・生活の工夫まで、泌尿器科の視点からわかりやすく解説します。
まず初めに過活動膀胱とは?
過活動膀胱とは、「膀胱が必要以上に“活動してしまう”状態」を指します。具体的には以下のような流れが関係しています:
通常、膀胱が尿をためると膨らみ、一定量になって初めて「そろそろ出してもいいよ」という信号が脳に伝わります。
しかし過活動膀胱では、この“待て”の仕組みがうまく働かず、尿をためきる前でも膀胱が収縮を開始、強い尿意を感じたり、急にトイレに行きたくなったり、時には漏れてしまったりします。
過活動膀胱の人数は調査によって異なりますが日本で1000万人以上いるともいわれています。
実際、「40歳以上の男女のうち8人に1人」がこの状態に悩んでいるとも言われています。
性別を問わず起こり得ますが、女性では加齢によるホルモン変化、男性では前立腺肥大症が背景となることが多いです。
つまり、「トイレが近い」「急に尿意」「尿がもれる」などの症状がある場合には、年のせい・体質のせいとあきらめず、まず“過活動膀胱の可能性”を考えてみることが大切です。
主な症状は?
過活動膀胱で典型的にみられる症状には、以下の3つがあります:
頻尿(昼間・夜間)
昼間、トイレに行く回数が多かったり、夜寝てから尿意で起きる回数が増えている状態を言います。
目安として「日中で8回以上」「夜1回以上起きている」などが挙げられますが、重要なのは“回数”よりも「排尿回数が多すぎて日常生活に支障をきたしているかどうか」です。
尿意切迫感
突然、急に「トイレに行かなければ!」と思うような強い尿意を感じること。水の音や冷たい水に手を触れただけで反応するケースもあります。
切迫性尿失禁
強い尿意が急襲して、トイレに間に合わず尿が漏れてしまう状態です。これも過活動膀胱の典型的な症状のひとつです。
これらの症状が、日常生活(仕事・外出・就寝など)に「困る」「気にする」レベルで現れていれば、泌尿器科での相談をおすすめします。
検査・診断の流れ
過活動膀胱は症状だけで判断するのではなく、以下のような検査・確認が一般的です:
問診・専用のチェックシート で、頻度・状況・困り度を把握します。
尿検査:膀胱炎や他の泌尿器疾患が隠れていないか確認します。
腹部超音波(エコー)検査:残尿の有無などを調べ、膀胱・腎臓などの構造的な問題を把握します。
必要に応じて血液検査なども行われます。これは、似た症状を示す他の病気(例えば膀胱がん、前立腺肥大など)を除外・精査するためです。
診断後は、症状の程度・ご本人の希望・生活背景などを考慮して、治療方針を決めていきます。
治療と生活改善のポイント
治療は「まずは生活改善から」「それでも症状が強ければ薬物・機械的治療へ」という段階を踏むのが一般的です。
① 生活指導(最初にできること)
水分摂取量を見直す:過剰な水分摂取が頻尿につながることがあります。
カフェイン・アルコールを控えめに:これらが膀胱を刺激しやすいです。
冷えや急な体温低下を避ける:冷たい水に手を触れただけで尿意をもよおすケースも報告されています。
生活習慣・服薬のチェック:例えば高血圧の薬が頻尿の原因になっていることもあります。
② 膀胱訓練・骨盤底筋体操
骨盤底筋体操:尿を我慢するための骨盤底筋・括約筋を鍛える体操。1回10秒×10回を1日2〜3回行うなどが目安です。
膀胱訓練:尿意を感じたらすぐにトイレに行くのではなく、まず「少し我慢→落ち着いたらトイレへ」という流れを繰り返し、トイレまでの時間を徐々に延ばす訓練です。
これらは根気よく継続することがポイントで、「3ヶ月以上続けて効果を実感できることが多い」とされています。
③ 干渉低周波・磁気刺激治療
骨盤底筋体操や膀胱訓練だけでは継続が難しい場合、「干渉低周波治療」や「磁気刺激治療」という機器を用いた治療もあります。お尻や下腹部にパッドや磁気を当て、神経や筋肉を刺激して膀胱の過活動を抑えるものです。
④ 薬物療法
生活改善・訓練を行っても症状が改善しない場合には、薬による治療が検討されます。
膀胱の筋肉(収縮力)を抑えたり、過剰な排尿反射を和らげる薬が使われます。
副作用として「口が渇く」「便秘」「ふらつき・動悸」などが出ることもあります。特にご高齢の方では注意が必要です。
まれに、薬が強すぎて膀胱が緩みすぎ、逆に「尿が出にくい」「尿がたまる(尿閉)」という状況になることも。専門の泌尿器科での処方が望ましいです。
男性の場合、前立腺肥大の薬も併用することがあります。
⑤ その他の治療(重症例)
かなり症状が強く、上記の方法ではなかなか改善しない場合は、ボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法 のような治療が適用されることがあります。
膀胱壁に注射をして筋肉・神経の過活動を抑えるもので、有効率60〜90%とも言われています。
予防・注意点
「トイレが近い=必ず過活動膀胱」というわけではありません。
水分摂取が多すぎる、冷え・体調不良、尿路感染症など他の原因で頻尿になっている場合もあります。
特に「水をたくさん飲みましょう」とテレビ等で言われて、無理に水分を摂って尿量が増え、結果的に頻尿になってしまっているケースも見られます。
「歳のせいだから…」「恥ずかしいから…」とあきらめず、まずは症状を認めて専門医に相談することで、生活がかなりラクになる可能性があります。
まとめ
「トイレが近い」「我慢できない尿意」「夜中に何度もトイレ」――これらが気になるなら、過活動膀胱の可能性があります。
膀胱の“過剰な活動”を抑えるためには、まず生活習慣の見直し・訓練からスタートしましょう。
続けることで十分に改善するケースも多数ありますし、効果が薄い場合には薬物や機器的治療の選択肢もあります。
何より「まず相談する」ことが一番の第一歩です。恥ずかしがらずに、専門の泌尿器科を受診してみましょう。
頻尿・夜間頻尿・尿漏れ・過活動膀胱などについて相談・検査・治療したい方は岡山駅東口徒歩3分の泌尿器科の『おかやま腎泌尿器科クリニック』までお気軽にご相談下さい。
おかやま腎泌尿器科クリニック
院長 光井 洋介(泌尿器科専門医)
参考文献
- 日本泌尿器科学会. 「過活動膀胱診療ガイドライン」
